習作

窓の向こう側

窓の向こう側

makotoです。

この小説はももクロが好きな僕が、ももクロの初主演映画「幕が上がる」

を見た頃に書いたもので、幕が上がるのスピンオフのような感じです。

なので小説「幕が上がる」を知らないとなんだこれって感じかもしれませんし、

今読むとすごく恥ずかしいですね。

でも青春小説書きたいんだよなあ。

もっと恥ずかしげもなく青春汁を絞り出したやつ。

 

とにかく「幕が上がる」はとてもいい映画だし、原作小説も

すごく好きなので、気になったらぜひ読んでみてください!

高校演劇の青春物語です。

窓の向こう側

 延々とトラックの周りを走り続けるグラウンドの男の子。そんなものを見続けて面白いのだろうか?もしかして、その陸上部の男の子のことが好きだったりするのか?それとも、ただやり場のない視線をそこに落としているだけなのだろうか。

 転校生の中西さんは、初日に窓際の席を割り当てられてから、ずっとそんな調子で窓の外を深刻そうな表情で見つめ続けていた。何を考えているのか全然わからない。しかも、その佇まいに、なぜだかわからないが不思議と醸し出されるオーラのようなものがあるのだ。だから、珍しい転校生に近づきたいクラスのみんなも、未だ声をかけられずにいる。ただ一人、アイツを除いて。

「なーかにーしさーん!一緒にごはん食べよ!」

 昼休み、授業中から忘我の表情でグラウンドを見つめ続けていた中西さんに、がるるがでっかい声で近づいていくのが見えた。あ、がるるっていうのはアイツのあだ名で、本当は西条美樹なんて綺麗な名前があるんだけれど、みんながそう呼ぶから、いつの間にか僕もそう呼ぶようになっていた。がるるは自分で「西条美樹なんて名前私には似合わないから」と笑っていたが、僕はそんなことないと思う。黙っていればがるるは結構美人なのだ。まあ、その黙っているっていうのがアイツにとってどれだけ難しいことかは、御察しの通りだが。

「亮平!早く行くぞ!」

「あ、おう!」

 どうしてがるるはあの中西さんの謎のバリアをものともせず話しかけられるのだろう。馬鹿だからあのバリアが見えないのだろうか?そういえばこの間も自転車で看板に突っ込んだとかいって額から流血して笑顔で登校してきたっけ。そんなことを思っていたら、浩介はもう教室の外だった。購買のパンは早く買いに行かないとクソみたいなやつしか残らないから、わりと怒り顔だ。

 三年生になって、受験を意識せずにはいられなくなった僕たちは、みんながみんな、ほんの少しずつイライラしているような気がする。自分の将来、夢、目標なんてものが明確な高校生なんて、ほんの一握りだ。僕も浩介もそれほど成績は悪くないし、志望大学は決まっていて、模試の結果も悩むほどではない。けれど、進路のことを具体的に考えれば考えるほど「それでいいのか?」という思いが強くなる。

 たぶん、もっとおもしろいものを期待しているんだと思う。もっと、刺激的で、予想ができない、ドラマティックな人生を。けれど、ちゃんと考えれば考えるほど、今後の人生が面白くなるようには思えない。安定はしているだろう。けれど、それだけだ。大学を卒業して、社会人になり、疲れて帰ってきては、お酒を飲んでテレビを見る。それも幸せだろう。けれど、それでいいのか?

 きっと、自分次第なんだろう。どんなところにでも、おもしろいと思えるようなものは見出せる、と思う。けれど、それには積極的にこの世界を生きようというエネルギーが必要で、そういったエネルギーの生み出し方は、今までの学校生活では教えらえていない。自分で見つけるしかないのだろう。そして、浩介も僕も、勉強はできても、そういった分野は苦手なんだ。

 そんなことを、昨日もスタバでひたすら話し合っていた。周りから見れば、何もやったことのない青臭いガキが、何を偉そうに語り合っているんだっていうところだっただろう。帰ってから客観視して、本気で赤面した。けれど、それは僕らの本音なんだ。ただ、そうやって恥ずかしげもなく話し合った結果、そんな僕らでも夢中になれるものが見つかった。

 それは、恋だ。

「で?ラインきけたの?」

「無理だろ、昨日の今日だし」

 カレーパンを頬張りながらため息をつくという器用な真似を見せる浩介。

「今絶対チャンスだと思うけどなー。まだ誰も中西さんのライン知らないんじゃないの?クラスのラインにもまだ入ってないってことは、小島もきけてないってことでしょ?アイツ委員長のくせにびびってやがんだな。やっぱただの内申書狙い野郎じゃダメだなー」

 僕は適当に同意しながら「がるるならきっともう知っているんだろうな」と思っていた。というか、浩介はがるるが中西さんにあんなに積極的に話しかけに行っていることに気づいていないのだろうか?

 気づいていないんだろうな。みんながみんな、受験、受験。自分のことで精一杯。なんせ、これからの人生のほとんどが、これから立ち向かう受験の合否で決まってしまう世の中なんだから。その枠から出られるのは、よほどの才能か行動力のある人たちだけ。いい意味でも悪い意味でも「普通」な僕たちの学校には、そんな特殊な奴はまずいない。

 いや、いなくもないか。そう、中西さんがいる。あの子だけは、受験という名のこの戦争を、どこか冷めた目で見ているような気がする。彼女のあの、我関せずといったような表情を見ていると、みんなと同じように生きるしかない自分が恥ずかしくなってくるのだ。自分たちは意味のない、馬鹿らしいことに精を出しているような気になってくる。中西さんは、いったい何者なのだろうか?

 浩介は、僕が中西さんに一目惚れしたと思っている。けれど、逆だ。僕は彼女の、普通の人たちの流れには無関心といったような態度が気にくわない。彼女は自分の中に、確信めいたものでも持っているのだろうか?そしてそれは、この世界が評価してくれるようなものとして、示すことができるのだろうか?

「あ、橋爪さんがいる」

 浩介の声に顔を上げると、隣のクラスの橋爪裕子と、誰だっけ、確か、高橋とかいう子がうちのクラスに来ていた。どうやら彼女たちはがるるに連れられて中西さんとお弁当を食べに来たみたいだ。けれど、橋爪さんはあまり乗り気じゃなさそうに見える。まあ、がるるは大雑把で強引だからな。そういえば、どうしてがるるが橋爪さんなんかと仲が良いんだっけか。ああ、そうだ、確かがるるも演劇部だったっけ。そういえば、中西さんは演劇部の強豪校から来たとか、前にがるるがはしゃいでた気もする。ということは、中西さんは女優なのか?それにしてもがるるは毎日めげずによくあの中西さんに突っ込んでいけるもんだ。昨日も弁当食べ終わったらすぐ図書館に行くってことで追い払われていたのに。

「やっぱかわいいよなー、好きな人とかいんのかな?」

 浩介は橋爪さんがかなりタイプらしく、一年生の時からずっと彼女のことばかり言っている。ずっと同じクラスになることを切望していたけれど、結局その願いが叶うことはなかった。二人の接触は、僕が覚えている限りでは一度だけ。体育祭のリレーで、浩介が彼女の前でこけた時だ。心配して優しい言葉をかける、というのが僕らの中での橋爪さん像だったのだが、彼女はなんと爆笑して「ナイス、がんばれ!」と親指を立てたのだ。それに対して浩介は満面の笑みで「はい!」と答え、彼女への想いをより一層強めたというのだから、僕にはよくわからん。

 それにしても、そうか、中西さんは女優になるのか。かわいいといえばかわいいし、確かに雰囲気はある。けれど、石原さとみみたいな華やかさがあるわけでもないし、スタイルが良いわけでもない。だとすると、相当演技力に自信があるのだろう。しかし、演技力なんて曖昧なものに高校生が自信なんか持てるのだろうか?普通の世界しか経験したことのない僕にはわからないのかもしれない。僕だって、小学生の時の夢にはサッカー選手とか書いていたけれど、そのときですらその姿をリアルに想像してその夢を信じきっていたわけではないのだ。サッカー選手って夢なら、プレーは周りと比較しやすいし、自分の位置も測りやすい。才能のある奴は自信をもってその道を進むことができるだろう。しかし演技力となると、自分の位置を正確に把握することは非常に困難なのではないか?僕の中で、ますます中西さんとの距離が広がったというか、リアリティーがなくなったというか、違和感が強まった。ただの馬鹿か、天才か。でも、そうじゃないと、夢なんか叶えられないのか。この世界のほとんどの人がそうであるように。僕なんて、自分の夢が何なのかすら、未だに分かっていないのだから。

 そんな風に事実確認もせず勝手に中西さんについていろいろと考えを巡らせ続けたまま、気がつけば夏休みがやってきて、僕は未だに浩介から中西さんのラインを聞くように促され続けていたが、案の定それは達成されていない。

 高校三年生の夏休みといえば、もちろん受験一色。夏期講習などでほとんど通常授業の時間割と同じくらい学校に通っている。それは、そんなある日のことだった。僕は昼間の空き時間、自習室以外でどこか静かに勉強できる場所を探していた。なんとなく、同じところで同じように目的もわからず勉強していることに息苦しさを感じ始めていたから。そして、美術室の前を通り過ぎたとき、その話が聞こえてきた。

「私だって、怖いよ」

 中西さんの声だった。教室の窓越しに見ると、演劇部の三年生が集まって何か話し合いをしていたみたいだ。

「だって、テストみたいに正解なんてないし、それを測る確かな指標すらないんだから。例えばさ、あそこ。陸上部の人たちが、ひたすらトラックの周りを走り続けている。何の迷いもなさそうな顔で。私、あれを見ててね、ああ、羨ましいなって、泣きそうになることがあるの。だって、彼らはその方法が正しいって知っていて、自分のやっていることに確信を持っているんだよ。確かに演劇にもさ、呼吸法とか、発声の仕方とか、正しくプラスになる訓練はあるけど、それだけじゃ何者にもなれないじゃん。自分で考えて、自分で見出して、そして、それを世間の人たちに認めさせなくちゃいけない。怖いよ。確信なんてないもん。それでも、やり続けるしかない。というか、演劇をやらなきゃ生きていけない、みたいなものになっちゃったんだから、仕方ないんだ。なんなんだろう、私、馬鹿なのかな?ごめん、なんか語っちゃった、橋爪さんの相談だったのに」

「いいよ、ありがとう。そうだよね。私も女優になりたいって思っていたけれど、自分がどれだけ本気でそう思っているのか確かめたことなかった。だから今、この進路でいいのか、迷っちゃってるんだよね。うん、ありがとう。私もそうだ、女優をしてなきゃ生きていけない、それくらいの覚悟じゃないと、この道は進めないんだよね」

 立ち聞きしてしまって悪いと思ったが、僕はこれほど真剣に人生を選択して生きている人たちを知らなかったから、そのまま聞き流すことができなかった。彼女たちに比べて、僕はどうだ?普通の人間なのに、変に意地を張ったりカッコつけたりして、普通と同じことをしていることが嫌だなんて思ったりして、なんて子供っぽいのだろう?顔が赤くなるのを感じ、僕は自習室へ引き返した。そう、普通に、みんなと同じ努力をして、その道から外れないようにしておかないと。僕みたいな、何も生み出せない人間は。

 あれからいろいろ考えた。自分の将来、夢、望み。わからないんだ。どうやって探しに行けばいいかすらわからない。だからダメなんだろう。あと、中西さんのことも考えた。初めはどこか現実味のない特別な子だと思っていたけれど、あの日聞いてしまった話からすると、彼女もやっぱり僕と同じ人間で、同じ世界で同じように悩み、それでも夢を信じて行動している子なんだって。自分のダメさ加減にイライラする。どうすれば変われるのだろう。わからない。変わりたいのか?そう、僕は変わりたいんだ。何かを大きく変えたい。もっと生き生きと、積極的にこの世界を生きたいんだ。

 そして、夏休みが終わり、二学期が始まってしばらくしてから、僕は決意を固めた。

「よし、いくぞ」

「お、おうよ」

 浩介もかなり緊張しているみたいだ。なんといっても、二年以上片思いしている橋爪さんがいるのだから。夏休み明けから、中西さんの雰囲気が突然明るくなった。そして、演劇部の四人がうちのクラスで机をくっつけて弁当を食べるようになっていた。僕たち二人は、そこに乗り込もうというのだ。

 弁当を持って近づくにつれ、鼓動がどんどん高まる。周りの目も気になるし、反応次第では明日学校来れるかどうかも正直怪しい。けれど、当たり前のように何事もなく流れ過ぎていくこの学校生活に、自分から干渉してやるんだ。機会を待ち続けるのはもうやめた。これからは、何かが見つかるまで、ぶつかり続けていこうと、男二人で手を握り合い、スタバで語り合ったのだ。おそらくその光景は、かなり気色悪かったことだろう。

「あの!」

「あー亮平じゃん、なになに?なんかあったの?」

 さすががるる、良い反応をしてくれた。

「俺たちも一緒に弁当食べていいですか!」

 僕たちはもう、やけくそになって、なぜか弁当を差し出しながら深く頭を下げた。どんな顔をされているのか、見るのが怖かったし、周りにどんな目で見られているのかも怖かった。けれど、よくわからない興奮とワクワクに包まれていて、もう、なるようになれって感じ。

「え!どういうこと?!そういうこと?え!なにか始まっちゃうの?受験だよ?これから私たち受験があるし、大会もあって!え!いいの?なにか始まっちゃっていいの?青い春とかいて青春みたいななんか甘酸っぱいものが漂ってきちゃう気がしちゃうんですけど!え?誰と誰?何が何だか!」

 ちらりと顔を上げると、突然のことに騒ぎ出すがるると、それをなだめる高橋さん。中西さんと橋爪さんは、そんながるるたちをみて笑っていた。と、中西さんと目があう。

「だめかな?」

「いいんじゃない?」

 な、なんだこの落ち着きは!こっちが拍子抜けするくらいの調子で、中西さんは微笑んだ。なんだろう、やっぱり彼女、この夏休みで何かが変わった気がする。余裕ができたというか、物腰が柔らかくなっていて、錯覚だろうか、体の輪郭すら、うっすらと輝いているような、そんな気までしてきた。「いいの!?」と騒ぎ立てるがるるのおかげで、なんだか僕は少し落ち着いてきて「ありがとう」くらい言えたのだが、チキンの浩介が「じゃあ明日からよろしくお願いします!」と頭を下げたので、小躍りしながら教室を飛び出していくことになった。

 ああ、楽しいな。うん、楽しい。自分が何を望んでこういった行動を起こしたのかもわからないし、この先どういう未来を歩みたいのかもわからない。でも、今この瞬間を楽しいと思えるのなら、あながち間違った行動は取っていないように思う。きっとこの先も、いろいろと迷って、間違えて、後悔するだろう。でも、今を楽しく生きるということを忘れなければ、そんなに間違った場所には行かない気がする。今はとりあえず、それでいいか。それにしても、明日が楽しみだ。こんな気分は、ずいぶん久しぶりな気がする。笑顔が止まらない。

END

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