Makoto

平成ペイン2

平成ペイン2

2  僕は高校生まで太平洋側の地元三重県で暮らし、大学進学に伴い日本海側の福井県福井市に引っ越してきた。この地で夏を迎えるのは今年で三回目になる。太平洋側で暮らしてきた僕のイメージでは北陸といえば雪。冬こそ厳しいけれども夏は涼しく暮らせるのではないかと世間知らずに思っていたのだが、日本の夏の暑さはどこでもたいして変わら...

平成ペイン1

平成ペイン1

1  理由のない絶望、なんて書くとあまりにも大げさだが、対象のないこの苛立ち、焦燥感、息苦しさは昔からずっとつきまとっていた。目の前が真っ暗になる。足元が突然抜けるような感覚。そんなありきたりで被害者ぶったことを言うわけではない。もっと漠然とした、意識にのぼるかのぼらないかあたりにぼんやりと浮かんでいる赤い風船のような...

ラジオ探偵シリーズ0

ラジオ探偵シリーズ0

ラジオ探偵ねじまきねじおの誕生 はじまりましたーねじまきラジオ、おかもとです。 もりです。 いやあ、誰が聞いてんだって感じのこのラジオですが、どうですか? 楽しいね。思ったより再生数があるみたいで。 そうそう、前回も百回くらい再生されてるみたいで。ちょっと慣れてきて再生数まで気にし出してね。 この話ちょっと長いなとか反...

幕を上げる

幕を上げる

幕を上げる  悦子へ  突然のお手紙に驚かれたことでしょう。私たちが連絡を取り会わなくなってから、ずいぶんと長い時間が流れたような気がします。けれど、実際にはたった数年。私たちが出会う前に流れた時間のほんの三分に一ほどでしかないのですね。私たちはたった一夏でお互いのことを一番信頼するようになったのですから、会わなかった...

わたうみの冒険

わたうみの冒険

今日は僕の好きだったアイドルが解散した日。 一年前、僕は大好きなあの子と「授賞式で再会しよう」 という約束をしました(僕の中では)。   そして今朝、一通の封筒が届きました。 ある小説賞の事務局からでした。   あなた様の作品は、今回惜しくも入選を逸しました。   ですよね。人生そうドラマ...

自由

自由

自由 自由という言葉は、たしか福沢諭吉が訳したんだっけ。自らに由る。 ところで、自らって、なんだろう。 それがわからないのに、どうして自由なんて言葉を好きになることができるのか。 そこら中にある自由。どんどん世界は自由になる。けれど、本当に? 自由という言葉の意味が、僕にはよくわからない。 安楽死についての小説を古市さ...

漂泊の日々

漂泊の日々

1  僕は何が気に入らなかったのだろう?何がおかしいと感じていたのだろう。もうあまりよく思い出せなくなっていた。この部屋に引きこもって大学へ行かなくなってから数ヶ月が経ったが、僕はあの心底嫌気がさした日々から逃げ出して、どれだけ素敵な時間を送ってきたというのだろうか。実際は、起きて、食べて、寝ての繰り返し。昨日の記憶も...

最後の散歩

最後の散歩

この雪山の宿で迎える最後の休館日となった。あと一週間すれば私は長野県を後にして地元へ帰る。休館日には食事が配給されないので、朝から雪道を降りホテルのラウンジにあるカフェへ向かった。 いつも通りパン・オ・ショコラを二つ買い、窓辺の席でゆっくり食べた。雪道散歩でまだ息が上がっているので、あまり急いで胃に詰め込むと吐き気を催...

夜の雪道を見て帰郷を決める

夜の雪道を見て帰郷を決める

煙草を吸いに外へ出た。この宿では中に喫煙所がない。煙草を吸うためには大げさな上着を着重ねて冬山の寒空へ出ていかなければならない。 指が痛くなる前に風を遮り弱々しいライターで火を付ける。別に美味しいわけではない。煙草は嫌いだ。ただ習慣として吸っているだけである。体質にもあまりあっていないように思える。一日の終わりにだけ吸...

ハッピースタンプ

ハッピースタンプ

ハッピースタンプ  刈谷信一が釈放された日は天気の良い土曜日で、迎えに来た母に連れて行かれたイオンモールは家族ずれでとても混み合っていた。フードコートで食べたステーキは硬くて筋張っていたので飲み込むのに苦労した。母が紙幣で支払いをすませるのを見て、信一は深い感慨を覚えた。あたりまえのように使える紙幣。立派なものだ。俺の...

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